はじめまして。ここには私と貴方しかいないのですから、互いに名乗る必要はないでしょう。私は人生の裡に何度も筆を執っては投げ、執っては投げを繰り返してきました。しかし折ることはできなかったのです。例えば”折れないゴルフクラブ”があるじゃあないですか。折れない棒というのはつまり、よく曲がるのです。しなるのです。折れないゴルフクラブは実は折れるのですが、私の筆は折れませんでした。両端がくっつくぐらい曲げても折れないのですよ。非力な私ではねじ切ることもできません。どうあがいても、折ることができなかったのです。

 それで投げ捨ててきた筆をまた執る気になったのはなぜでしょうか。理由は特にないのです。私にしてみればいつも、何か書くのに理由なんかありません。でもいつも何かをやりなおすような気持で文字を書き始めます。

 今日は2023年の7月1日です。梅雨の真っ只中、昨夜の豪雨が置いていった曇天、大気は雨の匂いに濡れて重たくて、あんまり気持ちの良い日ではありません。昨夜、私は朝の五時すぎまで眠ることができませんでした。頭はぼうっとして、頭上は灰色の曇り空。一年の半分がまたも過ぎ去ったことを実感する日の夕方です。

 無為に生きることが悪いとは思えません。もしもそんなことを言ったら私は今までの人生で有為なことをなにひとつしてこなかったのですから、私の人生は最悪になってしまいます。私には生きる価値がないということになってしまいます。それは嫌だ、と自分の人生を勝手に価値づけようとする図々しさが私にはあります。嫌な人間です。

 でも別にいいじゃないかと、結局私は心のなかではそう思うことしかできないのです。意味のあることなんか成し遂げなくていい。別に実りある人生でなくていい。今日という日を、この一年の半分を無為に過ごしたって、それがなんだっていうんだろう。別にかまやしない。

 立派な人間にならねばと急き立てられる日もありました。というか現に、実際は今もそれから逃れることはできていません。そうはいっても自分の無価値さや無力さが劣等感や罪悪感となって私を苛むのです。だから夜も眠れないのです。

 いつも自分の元来の心と現実にあるべき姿の影が、私を引っ張り合ったり押しつぶしたりするのです。

 小学生か、中学生の頃、私は、自分の心というものを捨てられれば正しくなれると思っていました。自分のわがままや自分の感情を消し去ってしまえば、大人のいうことを聞いて、立派で正しくて、人のために良いことをできる人間になれると思っていたのです。自分の気持ちや我儘があっても誰かを幸せにすることはできないのだから、私の心は他人を幸せにするためには必要がないものなのだと感じていました。心というものは努力次第で消し去ることもできると、そう思っていたのです。貴方もそのようなことをもしも試みたことがあれば、きっと知っているでしょう。無理なのです。心は消し去ることができません。捨てることはできません。少なくとも自分の意志では。(しかし、誰かに壊されるということはありえるのです)少なくとも、私にはできませんでした。

 それでも、不可能だと知っていても、やっぱり私の心は邪魔でした。私に心なんていうものがあるせいで、人を傷つけたり、人の不幸を見て見ぬふりしてしまうのです。

 今でも変わることを、願っている自分がいます。

 正直なところ私は、人類をあまり愛してはいません。人類をもっと愛せていたら、人々のために何か意味のあることをしたいと張り切ることができたのでしょう。でも私は、あまりそういう気分になれませんでした。ずっとそうです。

 でもこんなところで貴方と出会うことのできる世界を、そしてこんな私の言葉をここまで聞いてくれた貴方の存在を、全く愛していないかといえばそれはきっとうそになります。

 この世界は一体あと何年続くでしょうか。水や生命はいつまで巡るのでしょうか。10年、20年? 100年? あるいは5000年?

 生まれてきたことをあまりよかったとは思えていません。毎晩毎晩、生まれてこなければよかったなと思います。”ここ”に”誰か”が必要だったのなら、それは私でなければよかったと。私には本当に、なんにもできないのです。でもこんな言葉だけは世界に残していくことができる。それが無為に消え去るだけでも別に構いません。そんなことは今に始まったことではないからです。

 誰かのために書くのではありません。でも、私と貴方のために書きたいと思っています。

 生きている限り、傷は癒えるのです。それこそが生きることの苦しみです。だからまた傷つくのです。死ぬまで。それを繰り返すのです。

 はじめましての挨拶としては少しばかし長くなってしまいました。今回はこのくらいで終わりにしておこうと思います。
 もし縁があれば、またここでお会いしましょう。

 さようなら。お元気で。

By 竹環

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